東京地方裁判所 平成8年(特わ)3892号 判決 1997年3月24日
本店所在地
東京都千代田区神田松永町二三番地NC島商ビル
昭栄建材株式会社
(右代表者代表取締役 井上正敏)
本籍
山口県厚狭郡山陽町大字郡四九一九番地
住居
東京都江戸川区船堀五丁目三番二-七〇七号
会社役員
井上正敏
昭和二〇年五月五日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官藤原光秀、弁護人丸山利明各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人昭栄建材株式会社を罰金一五〇〇万円に、被告人井上正敏を懲役八月に処する。
被告人井上正敏に対し、この裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人昭栄建材株式会社(以下「被告会社」という)は、東京都千代田区神田松永町二三番地NC島商ビル(平成五年一月五日以前は東京都台東区台東一丁目一一番一〇号)に本店を置き、内装材の製造販売及び工事の請負等を目的とする資本金二三〇〇万円(平成六年五月二五日以前の資本金は一二〇〇万円、平成四年一二月一〇日以前の資本金は五〇〇万円)の株式会社であり、被告人井上正敏(以下「被告人」という)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、材料仕入及び外注加工費を架空に計上するなどの方法により所得を秘匿した上
第一 平成四年四月一日から平成五年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二九七九万二五一九円(別紙1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成五年五月三一日、東京都千代田区神田錦町三丁目三番地所在の所轄神田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六四七万二一一七円で、これに対する法人税額が一四一万一四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成九年押第一八九号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一〇〇一万一三〇〇円と右申告税額との差額八五九万九九〇〇円(別紙3のほ脱税額計算書参照)を免れ
第二 平成五年四月一日から平成六年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億七七七四万二四二九円(別紙2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成六年五月三〇日、前記神田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一七五八万三九二三円で、これに対する法人税額が五五七万五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成九年押第一八九号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額六五六三万二〇〇円と右申告税額との差額六〇〇五万九七〇〇円(別紙3のほ脱税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全部の事実について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書
一 被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書(二通)
一 大蔵事務官作成の材料仕入調査書、外注加工費調査書、受取利息調査書、損金の額に算入した都道府県民税利子割調査書及び領置てん末書
一 水落英子の検察官に対する供述調書
一 水落英子及び本間陽一の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 検察事務官作成の捜査報告書二通(給与手当及び税務署の所在地に関するもの)
一 神田税務署長作成の証拠品提出書
一 東京法務局登記官作成の登記簿謄本及び閉鎖登記簿謄本二通
判示第一の事実につき
一 押収してある法人税確定申告書一袋(平成九年押第一八九号の1)
判示第二の事実について
一 検察事務官作成の捜査報告書二通(事業税認定損及び事業税認定損計算書)
一 押収してある法人税確定申告書一袋(平成九年押第一八九号の2)
(適用法令)
罰条
〔ただし、刑法は、いずれも、平成七年法律第九一号による改正前のものを指す〕
被告会社につき 判示各事実につき、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(情状による)
被告人につき 判示各所為につき、いずれも法人税法一五九条一項
刑種の選択
被告人につき 懲役刑
併合罪の処理
被告会社につき 刑法四五条前段、四八条二項(各罪の罰金の多額を合計)
被告人につき 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重)
刑の執行猶予
被告人につき 刑法二五条一項
(量刑の事情)
本件は、内装工事の請負等を業とする被告会社の代表者である被告人が、売上が増加して出た利益等を被告会社の将来の事業用資金の確保、その他自己の遊興費捻出や個人資産蓄財等の動機から、外注加工費及び材料仕入を架空、水増し計上するなどして、過少申告により所得を少なくみせかけ、合計約六八六五万円余の法人税を脱税したという事案であり、ほ脱率は、通算約九〇・八パーセントに達している。右犯行の動機、脱税額、ほ脱率の高さに、脱税工作態様が計画的であることなどをも勘案すると、犯情はよろしくなく、同種犯罪予防の見地からしても、その刑事責任を軽く考えることはできない。ただ、被告人には、業務上過失傷害罪、道路交通法違反などでの古い前科が二犯あるほかは、前科前歴がなく、本件発覚後は捜査に協力したほか、本件事件後、経理体制に改善策を講じて真摯な反省の態度を示し、これまで家庭的にも離婚を経験するなど不遇の中、被告会社を支える中心人物として活躍し、本件犯行後は、恵まれない人々へ寄附を心がけるなど改悛の情が認められる。他方、被告会社は、本件二事業年度分の税金を修正申告し、借財の上、その各法人税の本税、重加算税、延滞税等を完納し、未納の地方税分については、各分納を誓っている。当裁判所は、以上のほか、一切の情状を考慮して、主文のとおり量刑した次第である。
よって、主文のとおり判決する。
(求刑 被告会社・罰金二〇〇〇万円、被告人・懲役一〇月)
(裁判官 大谷吉史)
別紙1
修正損益計算書
<省略>
修正製造原価報告書
<省略>
別紙2
修正損益計算書
<省略>
修正製造原価報告書
<省略>
別紙3
ほ脱税額計算書
昭栄建材株式会社
(1) 自 平成4年4月1日
至 平成5年3月31日
<省略>
(2) 自 平成5年4月1日
至 平成6年3月31日
<省略>